序章
知人から「何か一本組んでくれや」と言われたので悪ノリしてジャンクギターを落札した所から話は始まります。
とりあえず「チューニングが安定して歪むギターが良い」と言われたのですが、トレモロギターの組み込みをやってみたかったのでストラトをベースに組んでいきたいと思います。
イメージとしてはJim Burst…本家はあまりに美しすぎるので、ちょっとインスパイアされるくらいのイメージで行きます。
現物
届いた現物はなんとまあ…一言で言うなら「学生の習作」っぽさがプンプン。そもそもロックナットにシンクロトレモロっていう時点で何かおかしいですから。
ブリッジまわりは何とか使えないかなと思って落札したのですが、サドルの溝もバリバリだし、10.5mmピッチだしで、ちょっとイメージと違うので木部以外は全部調達する方針で行きます。
何が地獄かというとネックポケットが深すぎて何故かネックプレートがシム代わりにされてたり、ボディ穴だらけの6点トレモロのビスがメチャクチャだったり到底楽器として組み込まれた痕跡がないのでチリ合わせに苦労しそうという所です。シムは色々候補選定したのですがカリン材で作ってみようと思いま pic.twitter.com/VS2YpWylLD
— みぜ (@mu_sette) July 1, 2024
ついでにネックポケット周りがメチャクチャなので、そのあたりも頑張らないとなァ…という感じです。
ただネックは程よく虎目が出つつ、しっかりラッカーで塗られてる所に上から青い塗料が塗られているようなので「ちゃんとしたネックに適当にボディを組み合わせたらとんでもない事になった」というのが実際の所な気がする。しらんけど。
改造計画
- 塗装やり直し
- ロックペグを使う
- フレット打ち直し
- SSHでアセンブリ組む
- ブリッジも新調
ボディ塗装
ボディは不要な所に穴が空いていたり、爪を立ててこするだけで剥がれるようだったので一旦スクレーパーで全剥がし。ただしサンディングで取れないキツめの打痕とかもあったので、これを生真面目にやってるとかなり骨が折れるぞ…と思い、Spray.bikeという自転車向けの塗料を使います。
赤が余ってたので楽天でピンクと青のミニ缶と、フレークの缶を買って4,404円、あとは自家塗装。
2m離れればわからないのでOKです(現場猫)
この時点でネックのシムやナットを埋める木材が必要になったので東急ハンズで調達。ちゃんと長方形に切り出して面取りしてあるので扱いが楽で良いですね。
ネックまわり
ラージヘッドとスモールヘッドの中間みたいなヘッドストックが気に入らないので切り落としてコンポーネントギター感を出す。
ロックナット周りは一度エボニーやウォルナットの端材で埋めた後、ナットの溝を切る。一応ピッチ的に正しい位置に刻めたと思うのですが、これは鳴らしてみないとわからんですね…
あとは適当にXotic Oil Gelで仕上げます。
ちなみにネックデートには85年と書かれていたのでほぼ40年選手ですね…頑張って蘇らせましょう。
元はラージヘッドとスモールヘッドの中間のよくわからんデザインをしていたので、ヘッドの丸いところを削ってコンポーネントギター風にする。
フレット
どうやらほぼ全く弾かれなかった(まあロクに音が出なかったので…?)ようなのでフレットの摩耗は見られなかったものの、少しうねりが出ていることや、端の処理が気に入らなかったので打ち替えます。
買ったものの使わなかったFCGRのステンレスフレット(Warmの01番)を使う。
Speedyはマジで固くてフレット打ち込みがシビア(変に打つと端が浮く)なのですが、Warmは一旦打った後いくらでも微調整が出来るのでかなり楽ですね。
一旦フレットを打ち替えた後は端をざっくり落としてレベルを簡単に揃えたら次の工程へ
ピックガード購入
この色だったらホワイトパールでしょ…ということでFeimanというAliexpressのストアからPOT穴の無いPGを購入。フェンジャパのPGをテンプレート代わりにして3つの穴のうち1,3番目を開けて、2番目はキルスイッチ用に小さい穴を開けます。
格安PGながら、端の処理とかは結構良い。USA規格になってるかは未確認。
ただ若干リアPUがネック側に動いているような…?
ボディのザグリ修正
とりあえずピックガードをボディ全体に対して違和感の無い位置に取り付けて中心を出します。
ピックガードを取り付けた時点でのPGザグりの問題点としては
- 微妙に並行が出てない&全体的に雑
- ブリッジPUのザグりがリアに寄りすぎている
- コントロール周りのザグりが浅すぎる
このあたりを修正するためにまずリアPUとPOTを仮乗せしたPGが望ましい位置に収まるようにザグりを入れます。
とりあえず拡張して収まるようにしたのですが、このボディは何故かブリッジPUのザグリがかなりブリッジ寄りにザグられていて、もう見るからに2点スタッドで弦の張力を支えきれないな…と思い、なおかつ柔らかめのセン材…ということで木部が負けないように5mmの板でスタッドを補強してあげます。
本当はトップ材として硬い板をザグって埋め込むだとか、スタッド穴より少し大きい径でメイプルとか硬い木を埋めて強度を持たせるっぽいのですが、まあ木部が負けないようにという意図では十分と判断し、あまり時間を掛けすぎないようにします。
もろもろ買ったパーツの着弾
色々パーツが届いたので今後の計画を考えます。
- Wilkinson WVP-SBという韓国製造のブリッジ
- Guykerのロックペグ
- Guykerのチタン製ネックプレート
とりあえずピックガードと平行になるようにブリッジを取り付けて、最後にネックジョイントについて考えるようにする。
ネックポケット修正→仮組み
ネックポケットがガバガバすぎるので追々木材シートとかで隠そうと思うのですが、一旦すきっ歯の状態でセンターが出るようにネックを組みます。
だいたいネックポケットの深さが19.8~20mm程度なので、4mmの板を噛ませれば15.8mmになる計算。
ネックポケットの平面を出す→適当に4mmくらいのシムを作る→大体センターになるように穴を開けて組む→仕込み角の様子を見ながらシム削る→ざっくり隙間が無くなるようにおがくずボンドで整形→ネックポケット外周の収まりを見ながらボディ削る→塗装 のプロセス。
ネックの仕込み角度はほぼ水平(22Fから1Fまで定規を当てると数mmほどボディに沈むので0.1度とか?)で、ネックのツバと2.5mm厚ピックガードの隙間が0.5mmという感じのポケットの深さでセットアップ(ネックポケット深さは約16.7mm)。
仮組みからの微調整とブリッジの取り付け
ざっくりネックポケットの仕込みを出してブリッジザグリの位置を決めようと思ったらどうやら本来ストラトのUS規格である25.5インチ(647.7mm)より少し短い646mmスケールだったらしく、ブリッジのスタッドをどこに開けるか、という所がすごい悩ましいという問題に当たる。
Wilkinsonのブリッジはアーム穴の所でブロックが大きくせり出しているので、ボディのザグリを広げて干渉しないようにする。
スタッドは寸法図見ながらキリでマークしつつ、穴の径を9.5mmまで広げる(アンカーはギザギザの山を含んだ最大の外径が10mm&溝の谷が9.5mm程度で、材が柔らかいので入るという判断)
金属ハンマーで打っても結構抵抗をもちながら入っていく感じだったのでまあ使ってズレる事は無いでしょう(40年前の材なら痩せきってるはずなので)
電装系
POTは500Kで普通の5Wayに0.023uFのコンデンサというSSHあるあるのサーキットに、FLEORという中華アルニコ5のPUで組みます。不満が出たら買い換えれば良い。
シールディングはノイズヘルが乾いてストックが無かったので銅テープを使います。隙間なく敷き詰めてそれぞれ半田でつなぐ作業が割としんどいから導電塗料は楽で良いですね…
音出し
組み上げ重量は3.4kg(アーム抜き)。塗装が予想以上に重くなったのとブリッジが重量級だった割にはまあ軽くて良いんじゃないかと。ネック・PU・ブリッジのセンターをちゃんと貫いて組み込めた所は褒めて欲しい(ブリッジはもう1mmほど遠ざけて良かったかも)。
生音は弦鳴りが強く、ボディが鳴りきらない感じ。低音がどっか行っちゃってる感じですが、スポイルされている(鳴りが極端にどこかに偏ってる)感じはしないのでちまたで言われるセンの特性通りといった感じ。
まあ確かに淘汰されていくボディ材たる理由はこの音か…という感じです。個性が強いだけで悪い音では無いと思いますが。
総額5500円の中華PUは意外とバランス良く、リアの低出力ハムバッカーはハムのストラトって感じで、ヌケの悪さはさほど感じない。メーカー揃えてるのにリアのネック側コイル+センターのミックスポジションがハムキャンセルにならないのはさすが中華。
電装系はこれでもかってくらいシールディングしてノイズを落とした上でスプラグオレンジドロップ+トレブルブリードの組み合わせでハイを確保した狙いですが、まあイメージとさほど違わない感じに出たので、ポン出しの割に決まった方じゃないかと。
その他微調整
弦を張りながら気になった所を修正してゆく。
- 弦を張るとネックが負けて反るので、ロッドは2〜3回様子を見ながら回していった
- ロッドはかなりゆるいので余裕ありそう。
- 韓国Wilkinsonのブリッジがあまりにも酷い。
- トレモロアームのトルク調整のねじが崩壊し、ローレットインサートを打ち込んで復活させる必要があったり
- ステンレスのサドルはバリの処理が甘すぎるし、ブリッジプレートとスタッドの接点はエッジがメチャクチャでアーミングをするとチューニングが狂うのでヤスリで調整する必要があったり
- そもそもブリッジプレートがブラス製なのでエッジもすぐに負けて凹んでくる。一番安い510Tとの差額は5000円なので、ここはケチる必要が無かった。
- ちょっとモダンな感じにしたかったのでネックポケットは落として弦とPGの距離を近付けた
完成
ということで出来上がり後、友人の手の下へ。
感想文
- ネックがある程度ちゃんとしていればボディがハチャメチャでもなんとかなる
- ボディが盛大に狂ってると何かと面倒くさい(平面出しするとボディが薄くなりすぎるから削らないようにしなきゃいけないとか、アセンブリの位置決めやブリッジの穴あけがシビア)
- 中華ロックペグは普通に使える
- 韓国Wilkinsonは地雷
ジャンクギター再生の哲学
このままだと粗大ごみ行きだよな〜っていう感じのジャンクギターを使える状態に持っていくという行為は、その過去の作品の欠点を愛しながら、自分の感性と融合させて新たな作品にするという…なんというか金継ぎに近い哲学があるんじゃないでしょうか。
ロンドンの皆さん、KINTSUGIの次はJUNK-GUITARですよ?
買ったものリスト
商品名 | 金額 | 備考 |
Spray.bikeスプレー(Fluro Magenta clear/Flake Silver/Fluro LightBlue clear) | 4,404 | @楽天 |
カリンとかエボニーとかの端材 | 3,000 | 結局使わなかったものも費用に含まれる@東急ハンズ |
FLEOR 500Kオーディオポット15.5mmショート | 965 | @Amazon |
FLEOR エレキギター ハムバッカー ピックアップ ブリッジ アルニコ 5 ピックアップ ブラック | 1,641 | @Amazon |
Wilkinson WVP-SB | 5,481 | @Amazon |
ピュアトーンジャック | 624 | @Amazon |
スムーステーパーフィルター ハイ落ち補正キット (type-1) | 500 | @Amazon |
Guykerのチタン製ネックプレート | 3,479 | @Aliexpress |
Guykerのロックペグ | 2,530 | @Aliexpress |
ストラップピン | 323 | @Aliexpress |
Fieman製ピックガード | 1,714 | @Aliexpress |
(工具)9,5mmドリルビット、ハンディールーター用やすりビットなど | 2,000 | 概算@Aliexpress |
FLEORシングルコイル(ミドル) | 1,915 | アルニコ5@Aliexpress |
PUカバーとコントロールノブ | 772 | FLEOR製@Aliexpress |
ギター本体 | 11,000 | 送料込@ヤフオク |
Analog Design US-Spec. 5way Lever Switch | 1,180 | @音屋 |
ネックプレートネジ(カラハム) | 550 | @音屋 |
なんか漏れてる気がするけど一応5万円に収まりました。
エンジニアとして働く90年生まれ。Web系技術を追っかけたり、PCガジェットや自転車いじりが趣味。オーディオオタク。