3Dプリントスピーカーでギター練習環境のアップデート

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3Dプリンタでスピーカーを自作してみたので記事にしました。
本当はYouTubeで動画化して換金できればいいなと考えていたのですが、結論そんなに良いものにはならなかったのでテキストで供養です。

これを作りたい

以前買ったFLAMMA FX200を使って練習していたのですが、いかんせん快適とは程遠く…

  • IRのキャビシミュを導入すると起動までモタつく&レイテンシが増える
    • Dual Wreckを直接繋いだほうがプラグアンドプレイの点で快適だし、Dual Wreck内蔵のIRの方がレイテンシも少ない
  • そもそも複数の音色を切り替える必要が無く、空間系も気に入った音を作れない
    • 現状の練習という目的の上ではマルチエフェクターの役割がない
  • A/Dが弱い
    • ローインピのギター突っ込んでもへなった感じになる
    • Dual Wreckを直接繋いだほうが音にハリがある(Send/ReturnでDual Wreckを繋ぐと、D/A, A/D変換で更にロス?)
  • D/Aが弱い
    • 出力が弱すぎてミキサーのライン入力に繋いでも十全に音量を稼げない
      • マルチエフェクター側で出力を上げるとクリッピングしてガビる。FX200のボリュームノブはD/Aレイヤの出力じゃなくて内部処理中の音量を上げるだけだったというオチ
    • Dual WreckのDI OUTは出力がデカい

「じゃあそもそもFX200経由して使う必要が無いよね」って事で上図のような構成でしばらく使っていました。
ただスピーカーレスの構成なので、リラックスしながらスピーカーで弾いてみたいよね、みたいな欲望が出てきたのでマルチエフェクターを処分した空きスペースにスピーカーを突っ込んでみよう、ということで…。

スピーカーユニットから考える

まず何も考えずに注文したFR085CU02からどのようなエンクロージャーにするか考える。
これはウェブコー「FR070WA05」のフランジ形状を円形にした横浜ベイサイドネットの特注モデルなようで、海外レビューの周波数測定の結果を見る限り本当に下から上まで綺麗に出る小型(2.75インチ)ユニットみたいで、まあこれでダメな音が出たら組み込みの私がダメだというほど良いモノを選んだという形。セール対象+ポイント500円引きで送料込み14,350円でした(ペア価格)

FR085CU02

ワンオフ品でPDFリンクが死ぬかもしれないので、大事な寸法のみキャプチャしておきます。

フルレンジ1発で3Dプリントスピーカーを作るというと、ラビリンス(バックロードホーン)だとかパッシブラジエーターだとか螺旋形スピーカーだとか色々出てくるのですが、3インチクラスのドライバーでは下手に凝ったデザインや機構にすると解析的なプロトタイピング地獄が始まるので、とりあえず作ってみようという所から始めます。

螺旋型スピーカー?

ちょっとワードだけ引っかかったのでメモ。
検索して真っ先に出てくるのはDEEPTIME社の「Spirula」ですが、アイデア的にはラビリンス型のような「Transmission Line」が原典として存在していたり、Bowers & WilkinsのNautilus(ノーチラス=オウム貝)というかたつむり型の超高級スピーカーが30年前から存在していたらしい。
螺旋型エンクロージャーと箱型のエンクロージャーではf0の計算式が違うようで、どうやら謂われる中ではエンクロージャー内部がすべて局面で構成される螺旋形ではf0が上がりにくい(より少ない体積で低音が出る)との事まではわかるものの、箱型スピーカーのように計算式にM0やら突っ込んで終わりという訳にはいかないようで…製品として市場にある以上何らかの魅力はあるみたいですが、自作でやるにはハードルが高い(またはデザイン重視)気がする。

とりあえず作ってみる

小型のスピーカーエンクロージャーの3Dデータを探していたところ、「Angular Speaker Box」というものが丁度3インチ向けに設計されている。
https://www.printables.com/model/157143-angular-speaker-box

バスレフポートが無いのがちょっと気になります。
今回のユニットはQes=0.49, f0=89なのでEBPは189Hzとなり、200Hz以下の音は有意に落ちてくるはずなのでまあ間違いなくバスレフポートは必要になってくるかなと…

スピーカーユニットの取付穴は要調整なので、Autodesk Fusion360を使って調整します。非商用(個人用)は無料です。Autodeskサイコー

供養

Autodesk Fusion(気づいたら360が取れてた)を開いたら10年前に書いたヘンテコデザインが発掘されたので、せっかくなのでここで供養しておきます。

スピーカーのモック作成

無くても良いのですが位置合わせでミスらないようにざっくり作っておきます。

修正内容

  • バスレフポートを付ける
  • スピーカーユニットやジャックの収まりを整える
  • ユニットの適切な容積について考える(余裕があれば)

バスレフポートの断面積は振動板面積(Sd)の20%~50%とのことなので、今回のユニットのSd値22cm^2から20%と見ると4.4cm^2、円にすると半径1.183cmなので、キリよく考えると直径2.4cmのポートになるが、筐体的にはそんな余裕は無さそうなので面積5cm^2の長方形でデザインに合わせてみます。長さはざっくり目分量。

ちなみにターミナルは86mm四方5mm厚のアルミパネルで、3mmねじの入る穴を開けて足を取り付けられるようにします。

STLデータを確認してみると外部は11cm*14cmのハコって感じで、板厚1cmなのでだいたい容積は10cm四方で1L、合ってるか分かりませんがバスレフ式の平坦容量を求める「20*Qts^3.3*Vas」を信じて値をツッコムとほぼ1Lとなるので容積はだいたいこれで良さそう。
ただしバスレフポートの設計としてはハコをはみ出るくらい長く(10cm以上)取らないといけないっぽくて、これは音を出して確認ですね

スピーカーユニットは寸法に合うよう落とし込みを入れる。受け口は六角ナットだからそれの彫り込みを入れて接着剤で止めればユニット取り外しできるようになるけど、積層の強度を信じられないので彫り込みは入れない。
あと謎にターミナル用のアルミ板を買っちゃったので、本来そうする必要は無いのですがターミナルを埋め込めるように落とし込みを作っておきます。

プリント

今回は充填率も高めていきたいので新しくPETGのフィラメントを買っておきます。
私が持っている3DプリンタはEnder3 S1 Proなのですがしばらく使っていなかったのでFWアップデートしつつ、Curaでスライスして印刷。
1段目のプリントを何回か繰り返して均等にプリントできている事を確認して本出力。
2つのパーツをアセンブルする場合、本当は軸方向が合っている方が精度の誤差は出にくいと思うのですが、今回はバスレフポートを追加した都合、Bottomパーツは底面から、Topパーツは全面から出力します。結論、アセンブルするにあたっての支障はなかったのですが、積層の方向は素材の旨味的に考えると不整合になっているので、まあこれは好みかと(サポート材でちょっとフィラメントの消費が増えるだけ、という話なので)

アセンブル(組み立て)

サポート材ペリペリしつつ、細かな個所を修正。

  • 5cmで穴を開けても実際はそれより若干穴は小さく出るので、0.2mm(積層の水平方向なら0.1mmでもいいし、積層ピッチ0.2mmなら0.2mmで刻んだ方が良いかも)くらい全て大きくしたほうが良い
    • ドリルとヤスリで解決
  • L字のザグリは3Dプリンタの性質上、正しく直角が出ない(ザグリ部のキワは円形に刻まれるし、山はすこしうねる)ので丁寧に仕上げるには組み合わせの部位はそれなりにヤスリがけが必要

元ネタの3Dデータはなぜか斜めにスライスされた状態だったのですが、そもそも家庭用FDM方式の3Dプリンタで高精度のアセンブルが不可能な時点で、例えばバックパネルだけネジ式(または接着)で組めるようにプリントしたほうが加工難易度も低くて良かったのでは…という感じです。
ちなみにこの容積で箱鳴りは考える必要が無いと思ったので吸音材は無しです。PETGは弾性があるので尚更。
ちなみにPETGの接着はコニシ ボンド ウルトラ多用途SU プレミアムソフトを使いました。セメダイン社だったらUT110とかが良いらしいですが、接着面に変な応力は発生しないので、隙間を埋める粘土高めの接着剤ならお好みかと。

完成

試聴

一応比較対象を挙げます。

  • ①MOTUのAIF付属のD/A→中華TPA3116アンプ(EQ無し)→Cambridge Audio S20(ペア2万円クラス)
  • ②MOTUのAIF付属のD/A→中華TPA3116アンプ(EQ無し)→本作
  • ③MacBookライン出力→EDIFIER MP230(48mmフルレンジ2発+パッシブラジエーターのよくある小型Bluetoothスピーカー)
  • ④14.2インチM3 Pro世代のMacBook Pro内蔵スピーカー
番号高音低音音場/分離感コメント
2Wayシャッキリユニットサイズからは十分最高デスクトップスピーカーとしてコスパ最高
ハイハットの音が優しいくらい落ちるレスポンス悪くないが楽器ごとの分離感◯
音場は狭め
ユニットを鳴らした時のポテンシャルはある。
すこし落ち気味だけどEQで持ち上がってる感じEQで作られた不自然な飛び出方狭いけど違和感無し
分離良くない
これ単体で出番は無いんだけど電池駆動するしBluetoothもつながるからまあ…って感じの音
気持ち悪いくらい出る低音はスポイルされるが反応◯不自然なくらい広い色々言われるけど「耳に入りやすくて気持ち良い音」を狙って作り出してるのでリスニングには良い

雑食なのでAvenged Sevenfoldみたいなメタルからボカロ系打ち込み音楽からギタリストのハイレゾ音源まで色々流してみた雑な感想。昔LINNのショールームで部屋を丸ごと鳴らすシステムを聴いて涙した経験からは比べるまでもないグレードなのですが、んなもんウチには無いので手に届く範囲での比較です。

まず今回の制作費が2.2万(スピーカー1.5万に材料費多く見てざっくり7000円と仮定)とすると、原音再現性とかで見たら素直に手頃なモニタースピーカーとか買ったほうが良いけど、11cm x 14cmのサイズにフルレンジを収め、なおかつEQやパッシブラジエーター等の誇張なしに音を鳴らしたい(ギターの練習のため)という特定ニーズに対してのみ刺さる、という感じかもしれない。ギターの音は高い所も低い所も要らないので。
対して実際リスニング用途で考えたらどうなん?っていう所は、ユニット自体のポテンシャル(原音忠実性)はかなり高いと思うんだけど、低音が若干ボソボソしたり、高音は落ち込んでるのでEQで持ち上げてあげる必要がありそう。

あとは解析的な話はしません(波形見てどうこう言うほどの知識も無いので)。

ただまあ適当にサイン波の周波数変えながらピークを確認してみると156Hzに山があったので、このへんの共振ゾーンをバスレフポートの改良でどこまでフラットに出来るか?って感じです。ダクトの長さは7cmでしたが、これはもっと長くした方が良かった。
低音のピークと暴れの様子を見つつ、化学繊維系のフェルトを22g突っ込んだあたりで聴覚的に安定してきたので調整終わり。

ユニット設計の反省点と学び

  • バスレフポートをマスキングテープで塞いだ途端ユニットが鳴らなくなってしまったのでバスレフポートを作ったのは正解。容積が少なすぎる。
    • ただし周波数ピークはミスってたので、恐らく6cm^2くらいだと12cmは稼いだほうがいい。そうするとバスレフポートは弧を描くような曲線ダクトにするってなると、パーツは別出力前提になりそう。
    • あるいはそもそも1Lという小容積では無理があったのかもしれないし、その上では低音の音量を稼ぐという事に対するトレードオフで少しモソっとしてるのかもしれない
  • 意外とスイートスポットが狭かったのでギターのモニタリングとしては設置場所を考慮したデザイン(上方向にスラントさせる)が必要だったかも
    • 高音がコーンの軸から15度くらいの範囲じゃないと出てくれない(聴こえない)ので、美味しい所を聴くためにはドセンター狙える位置にスピーカーを傾ける必要がある
  • 3Dプリンタ悪くないじゃん
    • MDF合板やアクリルで自作スピーカーやってた頃は小さな音量でも謎の箱鳴り共振に苦しんでいた記憶があるものの、エンクロージャー自体が絶妙に柔らかく、なおかつ箱の中身の構造を微妙に共振しづらい構造に出来るため、音のまとまり方は適当に作った割にかなり満足できるものだった

結論

「3Dプリンタでエンクロージャー製作の難易度は圧倒的に下がったが、サイズや使い勝手以外の音質を求めるのはかなり試行錯誤が必要」
どうしてもマルチウェイのスピーカーと比べると攻守の弱さがあるのですが、リスニングにしても値段なりの音は出るし、「ギターシステムに組み込む超小型スピーカー」としてしっかり個人的なニーズは満たせたので満足。あとはしっかりスピーカーユニットから出る音(波)と向き合うので、スピーカーユニットの特性を理解した上でギターを鳴らすというのは音作り的にも意義のある行いだと思います。

現在のリグ

このミキサーが丁度良くて、アンプシミュレーター側がDIとIR(キャビシミュ)両方同時出力できる特性を活かして両方のアウトをミキサーのIN1,IN2に繋いで、つまみで切り替えるとヘッドホンを使う時はIRの音で、スピーカーを使う時はドライの音で…というのを気軽に実現できてこれがうまく動いた時はニヤっとしました。

肝心のスピーカーの音ですが、ギターアンプとは口径から構造まで全く違うのでその特性の違いは言わずもがなですが、それなりにドライな音として出てきてくれるので練習にはいい感じです。今の所使用頻度はだんぜんヘッドホンの方が多いのですが、「スピーカーで弾きたいなあ」みたいなモヤっとしたときにサッと使えるという所だけで意味があるかと。

電源の取り回しについては、主電源として電源タップを引きつつ、筐体の裏にUSB給電アダプターと9V-18V可変のパワーサプライを使って

  • パワーサプライ側
    • 9V -> エフェクター(歪はアナログだけど一応アイソレート効いてるっぽいのでノイズは特に気にならないレベル)
    • 18V昇圧 -> 極性反転してアンプに(18V 1Aだけどつまみを半分も回さないので出力的には問題無い)
  • USBアダプター
    • ミキサー、Androidタブレット、Bluetoothレシーバー

と、電源の取り回し的にもACがスッキリしてるのがポイントです。

  • ラックの板がペラいのでアクリル板でも買って強度を持たせたい
  • ミキサーを中段アンプの上にお引越しして、上段にもう一個くらいペダルを置くスペースを作れそう
  • スピーカーに傾斜を付ける

このあたりは今後使いながら改善していきたい。

その他改善ポイント(思いついたけどやらない)

  • キレが欲しい&余計な低音を抑えたい
    • エンクロージャー内にちょっとフェルトを仕込むだけでだいぶキャラクターが変わります。タッカーを打てないので適当にウールつっこむのでOK。(定在波うんぬんよりも音がエンクロージャー内で暴れてるので、エンクロージャー内を複雑な形にするメリットは感じなかった)
  • もっと低音が欲しい or バランス整えたい
    • バスレフポートを長くする or パッシブラジエーターにする。
      • ただフェルトを突っ込むと低音が減っていくので、アンプのEQ(ソース側)の調整したほうが良さそう
    • これを突き詰めるにはプロトタイプ必須で、そうなるとバスレフポートもいちいちエンクロージャーごと印刷せずにすむようにモジュール化する…と考えると終わりがなくなる。