Takamine「Elite TW-25」のレストア

自作ギター

いきさつ

  • 知人のリフォーム業者で働いている人から「残置物でアコギ出てきたから直してちょ」と言われた

現況の確認

  • サウンドホールで確認できる限りでは75年製。定価25,000円。
    • ハカランダだったりサイドバインディングがあったり、同形式でもいろんなバリエーションがあるみたいだが、この個体は割とスタンダードな気がする
  • いわゆるMartinタイプ。胴幅は400mmくらいなのでサイズ感はOOOOとかJ-45とかあのあたり。
  • フレットはあまり減っていないので弾きこまれた痕跡は無い
  • 塗装の白濁が全体的に凄い
  • バインディングは胴のくびれ近辺が部分的に隙間になっているが、塗装を破壊するほどの剥がれではない
  • トップ浮きはブリッジの下部と胴の縁で2mmくらい。元からトップが膨れる設計なのかどうかは不明。見た感じではブリッジを少し低くするだけで問題無さそう
    • トップの膨らみをクランプで矯正する方法もあるようだが、結局「ブレーシングを入れ直さないと弦の張力で戻る」だの何だの言われてたりするので、現状の状態を活かす前提でやる
    • 人に渡すものなので、これをやると経過観察とセットになってダルい。50年で枯れて安定している状態に合わせる。
  • ネックはうねってるから指板修正は必要。ラジアスはR12より若干キツい感じだけどR10ほどではない(不明。中間サイズのRが存在するのかもしれない)
  • ブレーシング(力木)の剥がれは無さそう。指でコンコン叩くとよく鳴る。

計画

治すか治さないかで言うと「治す」で行きます。ただし、ペグの交換など予算が5桁に行くようなモデファイはしない。

  • 低予算で、削れるコストは削る(削りすぎることはしない)
  • ネックは全体的に塗装を剥がしてXotic Oil Gelで塗り直す。ボディは面倒くさいので清掃+タッチアップで済ませる。
  • ネックは痩せたり動いてるのでリフレットする。
  • トップ板は結構波打っている印象だが、「50年の経年変化を経た自然な状態」として考えて、治具による矯正は行わない。
    • 50年経って安定した状態をニュートラルとして考える。

購入物

  • HOSCO HFS-M1-P24
    • 国産ステンレスフレット。2200円くらい。
  • GRAPHTECH PQ-M600-00
  • GRAPHTECH PQ-9110-C0
    • マーチンタイプのナット&サドルセット。
    • このナットは底面が斜めになっていたので結論、不適合だったのだが、ヤスっても高さが十分確保できたので問題ない。
  • HOSCO TWSB-2
    • R12インチ用のサンディングブロック。
  • PLAYTECH AGS-1048
    • 安心のプレテク弦。レギュラーチューニングになる+古いギターなので細いゲージが正解な気がする。
  • 謎の端材(400円)
    • 押尾コータロー風にストラップピンを設置する時にネジを開ける余裕がなかったので小さいブロックを追加
  • ストラップピン(200円)
  • 牛骨/ブラスのブリッジピン(合計1,100円)
    • プラスチックのピンが見た目的にもアレだったので、中華で調達。
  • 中華カポタスト(500円)
  • SkySonic A-810(3600円)
    • 中華ピックアップ。良いも悪いもわからないが研究用に購入。

全部で12000円くらい。工具を抜いたら10000円くらい?5桁に乗ってしまったが、エレアコ化という所ではまあ安く収まったのでは。

ネック塗装剥がし〜リフレット

トップ面の白濁はなかなか激しかったので、巷で言われるアイロンを試した所、塗料の兼ね合いか熱してもなかなか綺麗に剥がれず、結局トップ面はスクレイパーでチマチマと削ることに。破片が飛び散るんですよね…
局面は2桁の荒いヤスリで頑張って削ります。ボディ面に掛からないようマスキングテープをして時間の取れるタイミングでエイヤッとやりましょう。
削りすぎると導管が露出してしまう(サフは面倒臭い)ので少し削りムラが見えるものの、Xotic Oil Gelでサラサラ仕上げになるよう調整。

ナットとサドルの調整

人に渡すギターなのであまり攻めすぎずにナット、サドルともに少し余裕を持たせる感じで押弦しない状態の12Fで2.5mm-2.0mmで調整。
古いギターあるあるなのか不明ですが、ネックが元起きしてるため、ハイポジションは少し弦高が高い。指板調整している時から分かっていたのですが、あまり指板を攻めて削るよりは滅多に弾かないハイポジションは犠牲になってもらう形ですね。

その他調整

トップ板の変形に伴ってバインディングが少し離れていたり、トップ板の端が少し浮いている箇所があったので、エポキシボンド(サラサラ系をこれでもかと染み込ませる)→段差を取るためにサンディング→Xotic oil gelで仕上げ

エレアコ化

一旦完成したので少し鳴らしてみて、これはイケる!と思ったのでPUを注文。
サドルの下に仕込むピエゾ式は施工難易度が高いのでマグネティック式にする。ちゃんとやるとプリアンプとか考えなきゃいけないので、スタジオで音量を稼ぎたい時に使うくらいならこれくらいの値段で良いでしょうという判断。
後日引き渡しの時にJCに普通のソリッドギター用のエフェクトボード繋いで鳴らしてみたのですが、音量は低い(PUのポールピースは弦から遠い)しノイズは乗る(構造上、シールディングされてないシングルコイルPUのギターという事になる)しで音作りはなかなか難しいイメージ。とはいえアコギ用のアウトボードプリアンプも持ってないので、これは評価出来ないですね。。

完成

「低予算で弾ける状態に」というオーダーだったので仕上げは少し雑になってしまったのですが、用途と仕上がり/予算のバランスからしたらまあまあ上手くいったんじゃないかと。
50年近く経年変化したジャパンヴィンテージのレストアという観点から言うと、若干ひどいコンディションでも、派手な元起きやボディの変形等が無ければ直して使えるのが分かったのは勉強になった。元値2.5万の「当時の安ギター」でもマホガニーネックが贅沢に使われていたり、新品ギターには無い鳴り方をしてくれるので結構面白いです。

学び

  • 構造上の大きなクラックや変形が無ければ50年前のアコギは「治せる」
    • ただし直してみるまで細かい不具合に気付かないリスクはあるし、今回は割と運が良かったタイプ(だと思う)
  • 古いポリ塗装の白濁はどうしようもない(もし治せる一般的なアプローチがあるなら白濁個体が出回らない)し、剥がす前提でアイロンやるのはアリ
    • ただ、変質仕切っているのはやっぱ無理じゃね?という理解
  • トップ板はカジュアルに「歪む」
    • 普通に使っててもお腹パンパンになるし、どう変形したボディと帳尻を合わせるか?というのは職人の采配かもしれない(指板を修正するのか、ブリッジを削るのか…)