アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』が流行っているらしいと12月頃に聞き、8話の切り抜きを見て心が飛び跳ね、アマプラで12話まで見た結果がこれ。
パーツ買い集めて組み立てる行為とは?
まずプロの楽器製作者におけるこれら行為によって作り出されたものは「コンポーネントギター」とか呼ばれて、歴史的には80年代にRudy’s MusicというNYの楽器屋(リペア屋)が名だたるアーティストの要望に応えてボディやネックを取り寄せて作り、いつしかブランド化されていった中でそういった潮流に習ったブランドをコンポーネント系ギターとか呼んだりしています(私見)。
ただまあコンポーネントギターとは英語では呼ばなかったり(→とあるForumのスレッド)して、ルシアーでもない人間が半完成パーツのギターを組み立てる事を多くは「parts guitar」とか「Partscaster」とか呼んだりします。
どこでボディやネックを買うのか?
まず第一にFender社からオリジナルのボディやヘッドストックを再現する正式なライセンスを受けているWarmothやMightyMite社、なんならFenderも数年前から交換用のネックを販売しているのでまずそれを買うのが精度や仕上がり的には一番良い。
ただし、それぞれ値段もそれなりにあり、1本目から良い素材で作ると出来上がった時に悲しくなるので、値段を考えながらできる範囲で仕上がりを求め、自身の知識を深める事を目的とします。
コンセプトの選定と購入品に関して
- 最高級品は使わないが、中華ノーブランド等の明らかな粗悪品は避ける
- 王道スペックは狙わない
- ワンオフ/ハンドメイド品を積極的に取り入れる
- 構造上仕込みが難しいものにしない(ボルトオンandハードテイル)
まず徹底的にネットの海を彷徨って、ド定番のパーツをあえて外して手頃な価格で調達できそうなパーツをリストアップしてから、それら組み合わせを考慮した上で購入しました。
結論、テレキャスター警察に●されるギターが出来上がりました。
ボディ
まずはボディ。アルダーやアッシュだとよくあるギターになっちゃうかなと思ってReverbという楽器専門のメルカリみたいなサイトで丁度いい感じのボディがあったので即決で購入。
一瞬「え?」ってなって気づいたら注文が終わっていた。
フラットトップのPRSシェイプで何故かテレキャスター用のネックポケットとブリッジマウント穴。更にはエルボー/ウエストのコンター無し。
縦に伸びたスポルテッドなりかけみたいな変色とブックマッチの木目(いわゆる節目)、申し訳程度に入ったフレイム杢が良い。バック材の1Pサペリも良い色出してる。一日中眺められそう。
スポルテッドと呼んでいいか微妙なスポルティング具合なので音的な期待値としてはメイプルトップ・1Pサペリバックと呼んで差し支えなさそう。
サペリは乾燥時に反るという言説を見たのでちょっと不安になりながらも様子を見るつもり。
ボディ以外のパーツ選定
ネック
どうやら2020年頃からFenderがサーモウッドも含めリプレイスメントネックを販売しているらしく、コロナ工場製のネックも含めて確かな品質を得るならば最適。でもPRSシェイプに「Fender」ってヘッドに付けるのは神への冒涜じゃないですか。
勉強も兼ねてカナダのCarparelli Guitarsという所でいい感じのメイプルローズネックがあったので購入。
ペグ/ ネックプレート/ピックアップ/ブリッジ/配線
アセンブリは安定のサウンドハウス等国内通販。ブリッジの3連コマだけAliexpress。
部位 | 商品名 | 選定理由 |
ペグ | GOTOH SG381-HAPM | 安定のゴトーペグ。Carparelliのチューナーホールは10mmなのでグローバーペグ。ストリングガイド付けたくないのでハイトアジャスト機能付きのものを。 |
ネックプレート | ESP T-5 Titan | ESPが2016年くらいに出した5点止めボルトオン方式。手が小さいのでヒールカットしたい。チタンで軽量。ボルトはMONTREUXのステンレス。ネックプレートをボディに対して並行ではなく角度をつけて設置するのがモダンギターのお作法だが、一気に加工難易度が高まるのでプレート自体は平行に設置する。 |
ピックアップ | LACE Alumitone Humbucker | レースセンサーで有名なLACEの出したコイルレスパッシブ変態PU。Strandbergでの採用で有名(?)。軽くてノイズレス。トラディショナルなPUと比較して「暴れ」が少ないらしく、メリデメ評価はまちまち。軽量。カバードタイプで見た目のどっしり感をプラス。ダイレクトマウント。 |
ブリッジ | tatsuta Titanium Parts Telecaster Titanium Bridge Plate small | チタン製のブリッジプレート。10.8mmピッチ6連で3連ブリッジ裏通しに適合。コマはAliexpressでチタン製のものを選び、チタンで揃える。 |
配線 | Pure Tone Jack/SCUD/ALLPARTS | ジャックはPureToneJackの4接点タイプ。サーキットは250kΩポットに0.022uFオレンジドロップ抵抗と、2ハムのオーソドックスな方式。コイルタップ用に6Pin ON-ONのミニスイッチをTONEとPUトグルスイッチの間に増設する。Push-Pullのトーンポットでも良いけど、あれはスマートすぎて好きじゃない。 |
ノブ | guykerチタンノブ | メタルノブってどこで買っても結構する上に大して出音に寄与しないのでここはAliexpressで適当なものを選んだ |
今回ネックプレートやブリッジプレート・コマ等をチタンで揃えたのですが、ギターにおけるチタンパーツは…名だたるハイエンドギターに採用されないという事実が物語っていると思います。ただ「らしい」という情報だけじゃ納得できなかったのであえてチタンてんこもりにしてみた。PUもAlumitoneだし。
裏通しの弦ブッシュとか、現物合わせの小物は組み立てながら考える。ここまでで部材代はざっくり13万ほど。
組み立て
ボディの精度について
PRSシェイプのテンプレートから切り出しました!って感じの取り方。細かい所だけ見るとハンドメイド感あるものの、カッタウェイの三日月とかボディ全体はうっとりしちゃうほど仕上がってる。フィニッシュは2層オイルと言っているがHP見る限りはLigna Easy Soloという内装用のオイルを塗っているらしい。ネックポケットはTelecaster規格がちゃんと出ていそうだが、PRSシェイプ用のテンプレートがアレだったのか若干ネックポケットがガバガバになりそう。
ネックの精度について
注文したものは2万円という事だけあって、「板目!」って感じの板目だしフレットも浮いてるし、ポリのフィニッシュは荒いしネックエンド寄りのグリップの傾斜(16~17あたりのAみたいな字になるとこ)が手前過ぎて不格好。ポン付けだと1万円のギター以下。整形必須のコンポーネントパーツといった感じ。
ただし規模が小さいとはいえ楽器ブランド名乗ってるだけあってフレットもちゃんと25.5inchで、以前Aliexpressで興味本位で買ったローステッドメイプルのネックはナットの位置もバグってるし1~22Fの位置もちゃんとした国産ギターと比べて狂ってたりと、楽器の本質的な所が罠だったりするのですがこちらのブツはしっかり位置出しされている。
ネックのマッチング
ネックエンドが直角じゃないのでカンナや定規でこそぎ落として平面を出す。仕上げは荒いがサイズが若干大きめに出されていたのでマッチングできて良かった。
ネックをクランプで仮留めしつつ1弦と6弦のナットからブリッジまで手芸糸を張り、あたりの良さそうな所でドリル穴あけ。3本仕入れたネックのうち当たりが一番良いものを選んだ。
裏通しのバッシュ(フェルール)埋め込み
下穴は8mmだったので、ブッシュのクラウンがボディとツライチになるようにちょっと木工して圧入。リューターで削る時に暴れて傷付いたけど弾いてたらどうせ弾いてるうちに傷だらけになるからヨシ(現場猫)
ネックジョイント(ボディ側)
ESPのT-5という5点止め変則配置のチタン製ネックプレートを買ってみたのですが、買ってから都合の悪さに気付く。
- 従来のESP4点止めはインチ規格(38.2×50.9)だったのにミリ規格になっている
- 縦方向に長く、収まりを良く配置するためにはFenderの従来のプレートの位置より1~2mm程度ネック側にねじを空けなおす必要がある
- ESPのSNAPPERはネックプレートに角度が付くようヒールカットされているので、縦方向に長さを取って本家と辻褄を合わせるためにこういうデザインになっているのかもしれない。
今回はウォルナットの木柱が手軽に手に入ったのでそれを使って埋め木して所定の寸法で開け直し。
作業自体はボール盤を使うのが確実だろうけど今回は電動ドリルで一発。ネックは3.5mm、ボディは4mmで開けたかったので安いドリルビット(10本セット)を買ってみたのですが神経使って空けたわりには直角に抜けてくれなかったので、本当に精度良く出したいならボール盤一択ですね…ビルド最大の難所。
ちなみに今回ジョイントねじはMONTREUXのインチ規格(4.1mm径)。
エンドのヒールカット修正
ボルトの穴あけが終わってからやった。
今回のPRS風テレはボディ厚が40.6mm程度しか無い(普通のテレとかストラトは45mm)のでそもそもジョイント部の厚みが普通よりやや薄く、ハイポジションでのアクセス性だけ見たら無駄に加工するより4点止めでも良かったんじゃないかなーという気持ちにもなりますが一旦忘れます。
ボディは謎のオイルで仕上げられているので、Xoticの定番オイルでヤスったところはタッチアップ(導管止めは気にせず4度塗り)。純正の塗装は本当によく出来た家具みたいなツヤがあって好き。
ネックポケットの面の修正
ざっくり平面出しはしていたのですが、ボディとネックの仕込み角が甘く、ブリッジのコマが下がった状態になってしまったのでカンナと定規で少し角度を取る。
シンワ測定のステンレス定規は側面が丸められず角ばっているおかげで、定規を当ててこそぎ落とすように掛けてあげると盛り上がった所を削ってくれます。
なんやかんや納得するレベルで仕込み角を調整したらネックを削りすぎた感があるので、どうやって必要以上に削らず適切な仕込み角でセットアップできるかは次回検討課題とする。
ダイレクトマウント
木目を活かしたいのでダイレクトマウント。
ダイレクトマウントの取り付け例はいくつかパターンを見るのですが、PUネジ穴を加工せず、高さ調整が用意になるよう2mmの金属ねじ+インサートナットの組み合わせで実装する。
ナットの外径が3.2mmなので、3mmのドリルで適当に掘ってタイトボンドを下穴に塗り込んで圧入(六角レンチの先っちょに両面テーブでナットを貼り付けて押し込むだけ)。
※結構奥まった所にドリルしなきゃいけないので下書きが難しく、現物のPUをガイドにしながら下穴を空けた
はみ出たりナットに入り込んだボンドは細いドライバーとかで適当に処理。
ばねはステンレス系の結構硬めのバネを適当に切断したらいい感じになったので、ここの仕上がりはちょっと満足してる。
アセンブリ
今回はLACE Alumitone Humbuckerの推奨にある通り250kΩ、0.022uF(安定のオレンジドロップ)の組み合わせで1V1T、6Pミニスイッチでまとめてコイルタップできるような3Wayトグル式で組みます。ハンダはオヤイデのSS-47でハイファイ志向。
Alumitone Humbuckerは二次コイルを使って振幅を増幅させている高出力のシングルコイルという事になるらしい。その上で2次コイルが2個用意されていて、高出力・低出力の2次コイルを切り替えて擬似的にコイルタップできる仕組みとのこと。
オフィシャルHPに配線図が転がってるのですが見た感じ並列に繋がっている2次コイルのどちらを接地するか?によって制御しているらしく、シリーズ・パラレル等は固定。実質シングルコイルですし。
レンチを近づけると分かる磁気の強さで、これはまた後述。
完成
なんやかんやで完成。フレットのすり合わせは一旦取り急ぎで調整して、後は弾きながらネックが落ち着いた頃にもう一度すり合わせようといった感じ。
ボディを見た時に感じた「このパーツと組み合わせてユニークな見た目のギターを作ろう」という妄想を満たせる感じで組めたので、全体的な仕上がりとしてはまあ悪くないんじゃないかと。
試奏
市販の高いギターは何が違うのか?あるいは素人が無い知恵振り絞ってそのクオリティに追いつけるかという考察を元に組み上がったギターを触ってみる
見かけの精度
完成重量は約3.4kg。Alumitoneのおかげでだいぶ軽くなってる割には木部がずっしりしているので、座って引いた時のバランスは割と良い。
ネックはポリフィニッシュを80番でヤスって塗装を剥がし、気になる所を削って600番で仕上げてXotic Oil Gelでオイルフィニッシュしたおかげで、ネックを握った時のフィーリングは悪くない。ただ、元のシェイプがいわゆる太めのヴィンテージCシェイプ+9.5Rなので最近の薄くて手に馴染む系のやつにはならなかった。
生音
組んでる時から気付いたのだけれどボディをカホンみたいに叩くと鳴る。これがオイルフィニッシュのギターに共通するものなのか、良くなる個体の1Pサペリによるものなのかは不明。
ソリッドボディ+Fixedブリッジなのでテレキャスっぽい鳴り方するかなーと思いきや材の違いもあり、ちょっと不思議な鳴り方をする。生音の音量は大きく、いわゆるバカ鳴り系(落ち着いた音じゃないので、ちょっと悪いニュアンスもある)。
ピックアップを通した場合
FLAMMA FX200というマルチで通した音。
比較対象は次の通り。
- Fujigen Expret OS(メイプル指板マホガニーボディ/SSH)
- Rear: Suhr Aldrich, Middle,Front: Original
- GLIDE TL-01(ケボニーメイプル指板アルダーボディP90テレ)
- 型番忘れたけどダンカンの普通のやつ
まずAlumitoneの傾向としてひたすらノイズレスなものの、いかにもなハムっぽい音が出るから雰囲気としてはレスポールっぽい音だなあという感触。
コイルスプリットはやはり音量の低下を感じるものの、ハイを維持したまま低音がストンと落ちる感じなのでシングルコイル「ぽい」音は出る。全体的にハイの出方が特徴的すぎて他のギター用のアンプセッティングを持ち越した時に「え?」ってなるのがちょっと気になる(数値で言うなら5:4:7とか?)。
ポールピース(バー?)の磁力がクソ強いので最初「低出力PUだし弦に近づけておこう」と思って雑に設置したら変な音になった。このへんStrandbergのBodenがどういうセッティングになってるのかとか要調査かも。
アンプのゲインをめいっぱい上げたようなサチった歪みはちょっと苦手っぽいけど、普通に使いやすいハムとシングルの音がローノイズで出るので音は満足。見た目も含めてナニコレ感があって良い。
後悔ポイント
- ネックエンドを削りすぎた(高さ方向も距離方向も)&フレットが元から背が低いのに音詰まりが解消されない
- 必要以上に触りすぎたのが原因。一旦突板貼ってフレットは神経質に修正して様子を見る。
- 王道をはずしすぎてクセの強い音が出る
- Alumitoneが原因なのかチタンパーツ使いすぎなのか或いはサペリボディなのか、どこか落ち着かない感じの音になる。
- ピックガードが無いからカッティングでチャキチャキしたら早速スクラッチ傷が付いた
- ポリ塗装ならまだしもオイル塗装+脆いメイプルなので…
ネックの仕込みは知識もなかったし安いネックだったので適当にやっちゃえ!で済ませた所がやはり違和感になってしまったので、ネックの仕込みとピックガードに関しては今後取り組む予定。
学び
- 治具やメジャーを使え。人間の眼は歪んでいる
- カンナやヤスリは素人が扱うとボコボコになるぞ
- Youtubeのギター製作動画を見よう見まねするな。現実の手元にある現物をよく観察しろ(下手に時間を掛けて調整するより個体のクセを生かしたほうがいい)
- ネックいじるときはフレットにマスキングテープをしろ。さもなくば余計なすり合わせの手間が増える
- 酒を飲みながら作業するな
- 心が荒れている時に器具を触るな
内省ポイント。なんていうか自分では丁寧にやっているつもりでも想像以上に仕上げが荒かったりするので、どこに神経を使うかという所はある程度経験しないと身につかないかもしれない。
後はまぁ…上を目指すとキリが無いのですがどれだけ良い工具を使うか?という所は要検討。
補足
ギター1台組み上げるのに掛かった費用としては15万程度。掛けた情熱と時間はプライスレス。
弾くためのギターという観点では変なもん作っちゃったなあという後悔もあるけど、次に繋がるのでヨシ(現場猫)
何より今手元にあるセミオーダーフジゲンとGLIDEのギターの作りの良さを知り、DIYが流行れど生半可な技術と覚悟じゃ市場の廉価モデルにすら負けると知れたのが一番の収穫かもしれない。
ちなみにカナダのギターDIY系メーカーはEhfectsというWebリンク集でほぼ網羅されていて、アメリカでも中国でもヨーロッパでもない選択肢として自作する時は一考の価値あり。
以下、カナダ系メーカーで色々ショップ漁った中でユニークだと思ったメーカーをピックアップ。どれも海外発送してくれる。
- Havok Guitars
- Jescarステンレスフレットで安価(2万~)なST/TLネックをReverbで売ってる。
- ただし不穏なレビューが数件あるので、仕上がりに関しては値段なりのリスクがあるかも
- PRECISION Guitar Kits
- 未塗装ボディとネックをオーダーできる。Warmoth並にカスタマイズ出来るがお値段それなり。ホンマホネックやパープルハート指板で組めたり7弦モデルがあるのが面白い。
- UPSの送料がやたら高い(2万前後)のでまとめ買いできたら面白いかも。
- Spaltkinguitars
- スポルテッド材ボディ専門業者。「スポルテッドバーズアイメープル」とかいうクレイジーな素体もあるので在庫見るだけでも楽しい。
個人的にドンズバなのは無かった
- スポルテッド材ボディ専門業者。「スポルテッドバーズアイメープル」とかいうクレイジーな素体もあるので在庫見るだけでも楽しい。
エンジニアとして働く90年生まれ。Web系技術を追っかけたり、PCガジェットや自転車いじりが趣味。オーディオオタク。