あるネット住人からの視点という独断と偏見に満ちているという前提で、一つの見解として読んでいただければ光栄恐悦至極ではありますがっ(能美クドリャフカ)
バ美肉に関して
バーチャル美少女受肉という概念はVTuberの登場と頃を同じくして、2017年末には始まっていた。成人女性でも何でも美少女に扮すればバ美肉ではあるのだが、ネットスラングとしてのバ美肉はおじさんが美少女になりきるというギャップ萌えを楽しむという文脈を含む。
声の美少女化:動画配信の黎明期と共に
ニコニコ動画発の〈両声類〉シンガー、ピコがメジャー・デビュー! – TOWER RECORDS ONLINE https://tower.jp/article/news/2010/03/29/4471声の美少女化、というとまず「両声類」「女声」という用語が2008年頃から用いられてきた歴史を理解する必要がある。
ニコニコ動画の歌や声劇の投稿の中で「男性だけどかわいい声出るよ」というギャップを売りに出した投稿者は数多く存在し、今のバ美肉に繋がるような親しみ方が古くからなされていた。
そもそも、美少女になりきることはあくまで狭義の女装であり、バ美肉を構成する映像と音声の片側を担う音声に関しては、声の女装という文脈でインターネットが存在する以前から文化として存在している。
ネット文化という前提で言うと、ニコニコ動画では両声類修行中というコミュニティが存在していた。 最盛期はニコ生のコミュ枠が争奪戦になるほどの白熱具合で、2021年現在でバ美声VTuberとして活動する配信者のうち10年前からこのコミュニティで配信していたHNも結構見かけるため、上図にも系譜として含めた。 狂気の女声時代(2011年頃)はどこの需要に刺さるのか分からないボイトレ本が出たり、男の娘ブームの流行りと合わさった作品が出たりしていた。
※この書籍の付録CDのボイスサンプルがアレで「プロですら上手く説明出来ないものを実現するのって難しくね?」という流れになってからは、理論派ガチ練習勢みたいな所の勢いは落ち着いていった気がする。出来る人は出来る
そしてネット住人の叡智を集めても完全に美少女ボイスとして衆目を集めるような「出し方」を見つけるには至らず、「熱狂期」、「失望期」、「安定期」を綺麗に辿ってゆく。このあたり謎の技術ってところも含めてすごいAIブームっぽい。
熱狂期が過ぎ去ってからは斎藤さんで女性になりきって男性を釣る動画を配信したり、コミュニティの維持が続いていた。
※権威的な支配のある学問でもなく発展途上かつ、ボイトレという文脈を含めても用語や解釈に定説が無いので、このあたりは今もアンダーグラウンドのようなコミュニティで続いている。
受肉の手段:Live2Dの登場
2DキャラクターをWebカメラで自分の顔をトラッキングできる技術が広がってきたあたりから一気にバ美肉っぽくなる。ただしLive2Dでは表現力も少なく、いわゆるVTuberとしての活動が認知されるまでは暫く停滞の期間が続く。
VTuberの登場とバーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん
「バーチャルYouTuber四天王」と呼ばれるVTuberの登場と時期を同じくして、美少女に受肉したおじさんも出てくる。
おそらくネット界隈にインパクトを与えたのは狐娘YouTuberのねこます氏で、今のVTuberと呼ばれるアイドル化したそれとは違う、「美少女として受肉する手段を得たおじさん」の苦悩や有名になってゆくに連れての心の揺れ方は今見返しても味わい深いのでオススメです。
バ美肉のアイデンティティの確立と表現手法に関して
VTuberとして受肉に至る方法が一般化して、Unityを扱えなくても簡単にバ美肉できるという状況がボトムアップで文化の土台となり、「美少女の皮を被ったおじさんが配信する様子を見て楽しむ」というバ美肉の嗜み方が固定化されてきたのがここ1~2年の動きとなる。
バ美肉の台頭にあわせて声の受肉方法も「生声でがんばって可愛く喋る(女声原理主義)」「ボイスチェンジャーを駆使しつつ、ボイチェンに合う喋り方を模索したりエフェクトを洗練させてゆく(VC学派)」「いっそおじさんの声で喋った方がコンテンツ的に面白いんじゃないの(近代主義)」と色々に申せども、完全に本物に寄せるのは埋没して普通の女性VTuberと戦うことになってしまうので、このあたりのギャップのどこがウケるのかという模索がバ美肉勢の取り組みの現状であり、リスナーとしての楽しみ方かなと思います。
例のニュースに関して
これまでに述べたバ美肉はあくまでバーチャル美少女受肉おじさんというスラングを生み出すネットコンテンツの表層を説明するものであり、そもそもの異性装の動機は不可解な人の心にあるため、これはこういうものだという形式化を行うことこそがトンチンカンな理解になってしまうという難しい側面を持っています。ゆえに、某ニュースで取り上げられた「バ美肉」記事に対してVR系の団体がなぜ反応し、批判として述べられた「特定の趣味・嗜好への差別や偏見を助長するもの」は一体何を指し、どういう意図が存在するのかという疑問に関して「よく知らないものにレッテルを貼ることの弊害がバ美肉にも存在する」という解釈が得られると思います。
特にバ美肉は面白おかしく扱う風潮が当事者間ですらあるものの、その根源は性の揺らぎと変身願望にあると思っていて、これらを取り巻く環境も含めて決まった言葉で心の理解を試みようとするのはあんまり面白くないよなー、と。理解しないという理解って必要だと思う。
エンジニアとして働く90年生まれ。Web系技術を追っかけたり、PCガジェットや自転車いじりが趣味。オーディオオタク。